流浪オヤジ通信2002年11月号

ご挨拶

こんちは。オレ、黒坂。クロサカだよ。クロイタじゃないよ。クロサワでもないよ。間違えるなよ。

アメリカはカリフォルニア州サンフランシスコ在住。四十うん歳。妻子あり。職業:ソフトウェア・ヘンジニア。

10年ほどアメリカはサンフランシスコ近辺に住んでから日本に戻てきた帰国子女ならぬ帰国オヤジだったわけだが、やっぱりなんとなくなじまないので、またサンフランシスコに戻って来てしまった。しかし、アメリカに来てもアホなことはたくさんあるので、やっぱりグチは減らないわけ。そうういうこととか、そうでないこととか、適当に書き散らしたので、ヒマなら見ていっておくれ。
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目次

アメリカの選挙は大変だ

ニュースでご存知かも知れないが、毎年11月第2火曜日には、アメリカでは統一選挙がある。(「中間選挙」と訳するのが正式らしいが、オレは無視。) 統一というのは、市、郡、州、連邦(国)のレベルの選挙をまとめて全部一日でやってしまうからだ。 (ところで、今、オレは、市から先に書いたのにお気づきだろうか。 日本では、国がエライので、国、県、市と書きたくなるが、こちらでは逆。 電話帳見ても、この順番で書いてある。) さらに人を選ぶだけではなく、住民投票がやたらとあって(後述)、選挙に行く人は大変である。

ちょっと調べてみたのだが、サンフランシスコ市の有権者の場合、州知事、州議会議員とかの州レベルのポストが20人、市議会議員等の郡市レベルが13人で、あわせて33人の名前を選ばなければならない。(サンフランシスコ地区では今回、連邦レベルのポストの選挙はなかった。地区によっては、欠員の連邦議員を補充するための選挙がある。) もっともこの中には、裁判官7人の信任投票のようなのもあるので、きちんと決めなければいけないのは26人だが、それでも26人の名前を選ばなければならない。 このポストの中には、州書記 (secretary of state)、保険コミッショナー(Insurance commissioner ・・・どう訳せばいいのだろう?)、公教育長官(と無理やり訳したが、superintendent of public instruction)などなど、何をやるのかよくわからないポストがたくさんある。

これに加えて、住民投票の数がすごい。 州レベルの住民投票が10件に、郡・市レベルのが20件、合わせて30件である! 人の選挙と合わせると、63件の判断を行う必要があるわけだ。 これではどんな人でもひとつずつ判断することなど不可能なので、どうするかというと、政党に属し、その政党をとことん信じている人はその政党の模範投票用紙、 自分のひいきの新聞がある人は、その新聞社の出す模範投票用紙を持って投票所に行き、模範投票を書き写すらしい。 ふーむ、これでは気楽に選挙には行くわけには行かないね。 おかげで投票率は、30% ぐらいだそうだ。 しかも、この投票率というのは、普通に考える、実際に選挙した人数÷有権者数、ではなく、実際に選挙した人÷選挙人登録数なので、日本風に計算するともっと低いだろう。

えっ、選挙人登録って? 日本は住民登録が義務付けられているし、しないとかなり不便なことになるので、ほぼ全員の有権者は住民登録されている。 したがって、選挙委員会としては、住民票を元に、投票用紙を発行すればいい。 これに対して、アメリカには住民登録という制度がない。 そこで、選挙権を行使したい人は事前に選挙人登録という手続きをしなければならない。 しかし、別に選挙人登録しなかったからといって特に生活には困らないので、していない人も多いというわけだ。

で、住民投票の中身だが、サンフランシスコ市の場合、深刻なホームレス問題をどうするかというのとか、地下鉄の耐震性強化工事のために公債を発行することの可否を問うもの、市議会議員の給与に関するもの、不動産所有税の増税の可否を問うものなどだ。

この中にひとつ、全国ニュースでも取り上げられた住民投票案がある。 それは、医療マリファナという名前の住民投票だ。 実はカリフォルニア州では数年前、医者が必要と認めた患者は、マリファナの所持・使用を合法とする法律が通った。 喫煙するためのマリファナは、その目的で作った組合が合法的に生産できることになっている。 ところが、連邦政府の法律では、目的の如何にかかわらず、マリファナは栽培も所持も使用も違法となっている。 で、保守的な大統領のいる現政権は、州の法律が国の法律に優先することなど許せないので、連邦政府の麻薬取り締まり担当の役所(食品薬品局)を使用して、せっかくできたマリファナ生産組合の摘発とマリファナの没収を執拗に行った。 そのため、かなりの数が廃業に追いやられた。 そこで、民間だと国とケンカする体力がないので、マリファナ栽培を市営のでやってはどうかと考えたヤツがいた。 ただ、国とのケンカなので、いきなり始めるのではなく、国との裁判で勝てるかとか、経済効果はどうか、とかの事前調査をすることの可否を問う、というのが住民投票案Sである。 すごいね、日本じゃ考えられないね。(でも現都知事ならやりかねないけど。)

さて、結果だが、連邦レベルでは、連邦議会の両院をで共和党が支配するという悪夢のような事態になった。 戦費のことも、戦死者のことも、国際法も無視して、イラクとの意味のない戦争をおっぱじめそうで、オレとしては、とても怖い。 州レベルでは、二人の不人気な候補者が争った結果、民主党のしょーもない現職が再選された。 民主党はいいのだが、こいつは自分に政治寄付した人に有利な政治をする、露骨なワイロ政治をする奴なので、皆嫌っている。 で、問題のサンフランシスコ住民投票案Sだが、何と通ってしまった。 来年あたり、市営のマリファナ生産組合が誕生して、国とケンカを始めることになるかもしれない。 これはおもしろそうだ。

拉致被害者家族「帰国」問題

ほぼ毎朝日、フジテレビのニュースのダイジェストみたいなのを見ているが、10月の日本のニュースは北朝鮮(正式名は確か、朝鮮個人崇拝主義偉大なる総領様王国、だったっけ?)拉致被害者問題ばっかりで、かなりうんざりだ。 十年以上も引き裂かれた家族が再会できたのはとてもおめでたいことだし、はっきりさせねばならぬ問題もたくさんあるわけだが、こう毎日やられてはいやになる。 しかも、内容は、被害者達の今日の一日みたいなのばかり。 少しはそっとしてあげろよと思う。 どうもフジテレビは、こういう感情に訴えるニュースネタを選んで、長引かせる傾向があるようだ。

で、腑に落ちないのが、日本政府の対応とそれに対する被害者達の反応だ。 どうみても日本政府は北朝鮮政府との約束に反して勝手に被害者を北朝鮮に返さないと突然言い始めた。 こんな約束違反をしては、今後の交渉でことあるごとにこの約束違反をタテにとっていろんなことを言ってくるのが目に見えている。 悪い奴に対して約束守る必要はない、という考え方もできるが、そうなると被害者達の北朝鮮にいる家族に悪影響が出る必要もある。 それに、帰国した被害者達だって、2週間で北朝鮮にいる家族と再会できるつもりで日本に来たのに、これでは今度は日本政府によって拉致されたようなものだ。 しかしよくわからないのは、これに対して拉致被害者達が自分達を約束通り北朝鮮に返せとあからさまに反論しないことだ。 そりゃ無理やり連れて来られた北朝鮮という国そのものには未練はないかもしれないが、そこに残してきた家族には会いたいはず。 もしオレなら、日本政府に抗議するところだが、それがない。 となると、可能性としては、拉致被害者達も、本心では北朝鮮に戻りたくないのを日本政府が「以心伝心」で代弁しているか、それとも日本にいる家族(親)の圧力か日本政府の圧力で口封じされているかのどちらかと思われるのだが、真相不明。 いったいどうなっているのだろう?

ところでよく、マスコミは、拉致被害者の家族の「帰国」問題を口にしているが、これはおかしいのではないか? 拉致被害者自身は日本国籍を持ち日本で育った人たちだから、日本に行くことは帰国だが、家族達は北朝鮮で生まれ、北朝鮮の教育を受け、北朝鮮の文化の中で育って来たのだから、祖国は北朝鮮と認識しているはず。 さらに拉致被害者の一人はアメリカ人と結婚しているというではないか。 これでは、祖国と呼べるところが、北朝鮮、日本、アメリカと3つあるわけだから、日本に行くことを安易に「帰国」と言ってはいけない。 本人の意識の問題であるからだ。 日本人の間で生まれたら日本人、だから日本に住むのが当然、と考えるのは、いかにも日本人の島国根性である。

別にオレは、家族達を日本に呼ぶことに反対しているわけではない。 恐らく、中・長期的には、日本で生きていく方が、北朝鮮に住むよりは、本人にとってずっと幸せであろう。 ただ、帰国という間違った表現をして、事実をぼやかしてはいけないと思うのだ。

死者の日

10月31日は、皆さんご存知、ハロウィーン。 子供達が変装して、街を練り歩き、「Trick or treat?」(おどされるのがいいか、もてなすか?)と近所の家を一軒ずつ脅迫しながら飴やチョコレートをせびり取るとんでもない日だ。

で、ハロウィーンも無事に終わったばかりの翌々日、オレの近所(中南米人地区)であるお祭りがあった。 メキシコ由来のもので、Day of the Dead = 死者の日という祭りだ。 おどろおどろしい名前だが、この日の夜は、白装束や黒装束で、顔もおしろいを塗ったり、逆に黒く塗ったおどろおどろしい格好の連中が、通りを練り歩く。 いっしょについて回る観客も、半数の人が両手で火のついた大きな蝋燭(ろうそく)立てを持っている。 大きな死者をモチーフにしたのかと思われるハリボテの繰り人形や、わら人形もいっしょに歩いている。 アフリカ系太鼓と管楽器からなる小さな楽隊もいっしょである。 普通のパレードと違うのは、誰もが無言で歩いているということだ。

ウェブで調べたところでは、この日は、こうやって死んだ人たちのことを思い出し、追悼する日だそうだ。 要するにお盆である。 ただ日本のお盆と違うのは、死者をそっとしておくのではなく、死んだ人たちにも一年に一度街に出てきてもらって、楽しんでもらおうという意図があるようにオレには思える。

さらにウェッブで調べたところでは、この祭り、元々メキシコにあったものではないらしい。 死者を弔う日はあったのだが、それは11月頃に行うものではなかったそうだ。 スペイン人がメキシコを侵略した後、キリスト教の聖人を祝う日とかとごっちゃになって、11月に行うようになったそうだ。 また、メキシコで、サンフランシスコであったようなパレードがあるのかどうかはかなりあやしい。 ウェッブでみつけた説明や写真を見る限り、家々で、先祖を弔うという色彩が強いようだ。 先祖の墓に先祖の好きだったものを置いたり、蝋燭を捧げたりするようだが、これは昼間行う。 そういや、パレードをしている連中、メキシコ人風の人は少なくて、何故かアメリカの白人風の人が多いのが気になった。 どうやら、サンフランシスコ風に勝手にアレンジしているようである。

増殖するスターバックス

この前あるカフェで、「カフェラテ、ショートで」、と注文して、「スモールですね?」と店員に言い返されているオッサンがいた。 ご存知とは思うが、ショートとかトールとかグランデとかいうのはというのは、スターバックスの造語で、スターバックスしか使えない言葉だ。 これを他のカフェで使ってはいけない。

と思っていたら、日本のロイヤルホスト系のカフェでも、メニューにショートと書いてあるのを発見。 ひょっとしてロイヤルホストの担当者、ショートというのが今風英語と勘違いしていて取り入れたんじゃないだろうか?

という事態が起きるぐらい、日本でもアメリカでもスターバックスが増殖している。 ニューヨークのマンハッタンでは、1ブロックにひとつあるんじゃないかと思えるぐらいの増殖量だ。

日本に住んでいたころは、スターバックスは全席禁煙の唯一のカフェであちこちにあるので便利に使わせてもらっていた。 アメリカでも、あたりはずれがないし、すわり心地のよいソファーがあって、休むのにちょうどいいので時々使う。 しかし、あの「ショート」とかいう造語を客に強制する態度と、数で圧倒するマーケティング戦略には憤りを感じる。

スターバックスの進出によって、最近、個人経営のカフェが廃業に追い込まれたり、逆に買収されてスターバックスになったりということが、サンフランシスコを始め各地でで起きているそうだ。 こうやって、今に世の中のカフェはスターバックスだけという独占状態に陥りそうで、オレはとても心配している。

ところでスターバックスはシアトルが本社のグルメ・コーヒーを売りにするカフェだが、サンフランシスコ・ベイエリア(湾岸地区)には、スターバックスよりずーーーーっと前からグルメコーヒーを売っている店がある。 というか、最近読んだ新聞記事によると、スターバックスは創業時、ここの豆を使い、かなり協力してもらったらしい。 この店の名前は、ピーツ(Peet's Coffee and Tea) という。 オレは日本の喫茶店でよく出る酸味の強いコーヒーは嫌いなのだが、ピーツのコーヒーは、濃く苦いが酸味がないので、好きだった。 (「だった」、というのは、オレは胃が弱くて最近コーヒーを飲めないから。) 日曜日になると、ピーツの本店(当時)へ行き、列に並び、コーヒーをもらって、路地に座って人を眺めながらのどかな日曜日を過ごすということをよくやっていた。 このピーツ、ファンは多いのだが、スターバックスのようになりふりかまわぬ拡大戦略は取らなず、少しずつ店を増やしてきた。 そして、ついに日本にも進出する(した?)らしい。 噂では、横浜に1号店ということだが、詳細不明だ。 もし見かけたら、是非寄って、ご一報いただきたい。 あ、ちなみに、ピーツでは、小さなカップのコーヒーは、スモールと呼ぶ。 ショートと呼ばないように気をつけよう。

編集後記

先月号で、自動車事故に遭ったと書いたが、双方ともケガはなかったので、心配は無用だ。 ただ、車両保険をかけておらず、100%オレが悪いと認定されてしまたったので、自分の車は自費で治すことになり、またまたビンボーになってしまった。

話は違うが、最近なぜか出張が多い。 今回も飛行機の中でこれを書いた。 でも今回の出張は、1年ぶりに日本なので、ちょっとうれしい。 季節も寒からず暑からずで、ちょうどいい。

昨夜日本について、東京都内をうろうろしたが、まったく日本のホテルにはあきれてしまった。 まだ11月9日だというのに、もうクリスマスの飾りつけをして、ネオンがギンギンである。 赤坂プリンスなんか、一部客室の窓枠に緑の電球をつけて、遠くからみるとビル全体がクリスマスツリーになるようになっている。 そこまでやるか? まったく、日本の商業クリスマスにはうんざりだ。


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(C) 2002 KUROSAKA Teruhiko